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フランキーさんにも微妙に気づかれているらしき、王子と狙撃手さんの“悪巧み”は、だが、肝心な決行に当たって思わぬ暗礁に乗り上げており。怖いものなしのルフィ王子の側は、そこが使われなくなって久しい旧校舎であろうがつぶれた病院跡であろうが、女子トイレであろうが意に介さないらしいのだが。
「…最後のは何なんだ。」
単なるいきおいですがな。(苦笑) いかにも御霊のおわすだろう、王宮の古廟であろうが、今更何が怖いもんかいと、好奇心の方が大いに勝(まさ)っておいでのご様子で。だがだが、片やのウソップの方が、やれ罰が当たりはせぬか、許可無くしてやっていいことといけないことのこれは絶対やっちゃあいけないことの方ではないのか、終(しま)いには、そもそもこういう古い地図はアテにならないぞ、とまで言い出して、尻込みしまくっているようなのが、
「ここでの作業をしている横で、
メリーとのお遊戯だなんて言いながらああいう会話ばっかしとったんだ、
いくら何でも気がつくってもんだ。」
確かにコトがコトなだけに、極秘事項だ誰にも気づかれちゃあなんねぇぞなんて、大仰に構えているのは判らんでもないけれど。いかにもな態度でこそこそすればしたで却って関心を寄せるものだし、あっけらかんとしている王子様に小声で相談なんて持ちかけりゃあ、何度かに1度は大きなお声で“あ〜? 何てった?”なんて訊き返されるのは必定だろと。ゾロの側とて、新参の整備士さんから…細かい喩えで言われずとも、そっちの想像はついてたらしく、
「…まあ、あの二人に隠しごとをしろという方が無理な相談ってもんだからなぁ。」
それでも…その筋の専門家に頼らずの古文書の解読やら、そこから現在の地図への解析やらと、単なるドタバタや冒険話じゃあない部分もあったらしいのに、そんな下調べの段階さえ誰にも悟られてはなかったワケで。ここまではこのフランキーさん以外には、全くの全然 漏れてはなかった運びようは、ある意味画期的というか、まんざら下手くそなばかりじゃあなくなって来てもいると、言ってやっても良いくらい。
「で?
隠し財宝がどうのこうのっていう、それ以上の輪郭は判ってないらしいのか?」
「ああ。」
彼らが、所謂“金目当て”に燃えてる訳じゃあなかろうことはあまりに明らか。そして、だからこその温度差が…場所が場所だけにという躊躇、なんてな格好で現れたらしく。
「まあ、王宮内で話が収まりそうだってんなら、
あんまり目くじら立てないで済むんじゃねぇの?」
これがどっかの海岸だ、古い洋館だ、市街地の墓場だなんてところが舞台の話だったなら、そんなところへこっちの眸を盗んでこそりと抜け出されちゃあ、堪ったもんじゃなかろうが。ここの敷地内だってのなら、まま監視の目も行き届こうよと、その辺りをさしての言いようをするフランキーへ、
「まあな。」
外での“おいた”による騒動とか醜聞とか、はたまた 外敵からの危機を警戒しなくていいのは助かるが、と。そこのところへは同意した特別警護官殿ではあったものの、
「…どしたよ?」
「う、ん。」
微妙に煮え切らぬ態度でいるゾロだと気がつき、それへと“おややぁ?”なんていう不審を覚えた凄腕整備士殿。子供の遊び、ちょっとした冒険もどき。王族の、しかも相応に外交関係の仕事まで担ってる格の存在が、そういうことへと こそこそしつつも沸いて見せるのが、気に入らないとでも?
「いや、そういうんじゃねぇんだ。」
それを言ったら、それこそ沈没船のサルベージを仕事にしている会社だってあるっていうし。いや、ああいうのはそれこそ凄んげぇシビアな“ビジネス”化しとるらしいぞ、そうでなけりゃあ乱暴な山師が咬んでたり…と、話が例えたものへと逸れかかったのへ、
「だから。何て言やいいのか。」
よっぽどウソップを説き伏せるのに手を焼いているものか、こちらからの衝立(パーテーション)か目隠しのようにしたメカメリーの陰にて、時折大きく手を振り上げての身振り手振りまでしちゃ、あわわと我に返り、こっちの視線を確かめるように挙動不審になってる判りやすさ。そんな様子の王子様が、バレちゃあなんねぇぞと警戒する相手側のカテゴリに、今は自分も数えられているのだなぁと気がついて。
「…遊び仲間にされても困るが。」
けれどもだけど。向こうさんから距離を置かれるということが、そういや初めての運びかも知れず、と。そこのところが少々、大人の鷹揚さを持って来ても飲み込み切れない彼であるらしく。
“…へえぇ?”
そんな細かいところまでを吐露した訳じゃあないし、指摘したところで…恐らくは、そういうややこしいことじゃないなんて、素直じゃあない言いようをして臍を曲げるのがオチなんだろがと。そこまで見通せるところが、これでも工房に若い衆を預かっての兄貴分としての生活も長いフランキーさんの、許容や人性の深さというものなのだろう。片や、団体行動をしなかった訳じゃあないけれど、一人で何人分もの働きがこなせるところを見込まれ、流動的な作戦への自在な対応をこそ求められてた、一匹狼的傭兵だったゾロでは。自身へ我慢や忍耐を強いるという格好での人性の厚みは備わっていても、人との関わり合いという場面への経験値が足りないがため、例えば…放任にも限度があるし、思い入れるものが出来た途端、自身の思わぬ不器用さに気づいてしまうこともあり。
“砂漠の大剣豪が それって…かわいくね?”
途轍もない凄腕と聞いていたし、実際に逢ってみて…その物腰やオーラを直接というほどの間近に見てみて、確かに 隙なしの本物だとも思い知ったけれど。例えば、
「ま、俺様なんかは?
墓場に物ォ隠すなんてのはセオリーだよなとか、
油断しまくりな王子から、訊かれてもいるけどよ?」
「…ほほお?」
だって滅多なことじゃあ移転とかしねぇしサ、なんてって、結構いいトコ着いてくる王子様じゃね? わざとらしくもそんな風に…自分へは話を振ってもくるんだぜなんて言ってやれば。こんな他愛のないことが挑発になってか、切れ長の目に力みを入れて、受けてたってもいいんだぞという素からの面構えになるところが、
“可愛いもんだ、うん♪”
意外なお楽しみを手に入れたよなぁと、冷ややかな殺気を受け流し、鼻歌交じりに工具の手入れを続けるお兄さんだったりし。そういえば、年上のお仲間は少なかった面々だものねぇ。大人びて見せていても、そして、確かに…威風堂々、頼もしいお人ばかりではあったものの、失敗もまた経験と、そこまでおおらか大雑把に手放しして見守るほどの、技量や…自分への我慢が利く人まで、は恐らくいなかったような気もする過保護な隋臣の皆様だったりするもんで。
「…お。」
不意に、Trrrrrrr…という いたってシンプルなパターンの電話の呼び出し音が聞こえた。どこだどこだと見回す内にも、ピッという軽やかな操作音がし、
「もしもし…あ、ロビンか?」
屈託のないルフィの応対する声が立ったので、何だあの女かとゾロも納得したような表情となったものの、
「そういや、ここじゃあ電話ってどういう扱いになっとんだ?」
余裕の表情を見せていた、少々小憎らしかった“大人”のフランキーが、そんなご本人自身はあんまりこだわらない性分なのだろう、ゾロへとあっさり質疑の声を放ってきた。何だこのやろうと思いはしたが、ここで大人げない態度を取るのは何とかの上塗り。そのくらいは癪だが判っているものだから、
「回線通じてるものも、無線電波系のものも、
一応は中央の総務と警備課とで監視してるらしいぜ。」
何といっても場所が場所。単なる形骸化された王室じゃあなく、いまだに王族がそのまま治世も担当している国の王宮なだけに、そして、情報戦での台頭目覚しい国でもあるだけに。そっちの対処もきっちりしており、
「といっても、あまりに厳重すぎるってもんでもないらしくて。」
例えば、内容にまでの干渉は原則なされていないので、登録された回線を利用し、堂々と何処からかけております誰それだとの申告があり、それが正しいとみなされた会話は、プライバシーを優先してもらえもする。問題なのは、発信元が曖昧なものや信号のみといった代物で。盗聴や不審な交信、下手すりゃ危険な物体への起爆装置の制御信号ということだってあるのでと、そういったものはきっちりと拾われているのだとか。
「そもそも、今時に携帯電話レベルで重要な連絡を取る輩は珍しいんじゃね?」
何たって裸で電波が宙を飛んでるわけで。知識のない素人には無理でも、民間レベルの盗聴バスターって事業があるくらいで、どれほど筒抜けな会話かくらい、それこそ素人さんでも気がつこうもの。とはいえ、
“あの女からの電話ってのは、一応チェックした方が良いような気もすんだがな。”
ルフィの母上の妹だというロビンさんは、実は…ゾロガ一時的に身を置いていた、闇のボディガードだの何でも請け負う怪しい仕事屋の中継ぎだか顔役だかというポジションにいた人物でもあったりし。それもまた、この国への様々な情報収集のための窓口になっているらしいという話ではあったけれど。理屈と肌合いは別物、何とはなくだが、いまだに微妙な感慨の居残るゾロであったりするらしい、。そして、
◇◇◇
微妙に何分かを遡った、こちらは怪しい相談中のボーイズたちで。怖がってるわけじゃあないとあくまでも言い張るウソップが、だったら来るのか?と持ちかければ尻込みし、じゃあ俺だけでとルフィが譲歩すればしたで、いやそれはなんねェと食い下がるから、話が全然進まない。ルフィだけでの行動を取らせるのへまで難色を示す彼なのは、自分が意気地なしだと思われることへの抵抗と…それから。そこはやっぱり王子の身に何かあっちゃあ不味いだろうよという、基本的な姿勢がこんな場合へも滲み出していてのこと。とはいえ、
「だあもう、そんな我儘ばっか言ってんじゃねぇよっ。」
アレもこれもダメだと言い張る屁理屈には、さすがに無邪気な王子でもそろそろ腹に据えかねるものが出て来ておいででもあって。
「大体だ、そこに引っ掛かってるらしいが、そもそも何で古廟に隠したと思うよ。」
「そりゃお前、誰にも彼にもとたやすく弄れる場所じゃねぇからだろう。」
しかもただの墓場じゃない、王族の廟なんてところだけに、恐ろしいのへ畏れ多さも乗っかるんだ。こんな格好の場所はなかろうよと、理屈は判っているウソップへ、
「そうだよな。しかも、捨てた訳でも葬り去った訳でもねェってことだろ?」
なにせ、子供や孫が守り続ける場所でもあるんだからと続けたルフィであり、
「それは、そんだけ価値のあるお宝だったからじゃね?」
自分は亡くなってしまやもう触れもしなくなるけれど、それでも赤の他人には勿体なくって渡せねェってくらいによ。
「副葬品ってのもそうだが、お宝ってのはそういうパターンのもんが多いって話だ。人の欲望ってのはそこまで行くんだねぇ。」
死んでまでの執着なんて、恐ろしいと言いかかり、だがだが、こたびの話題の対象はと今更思い出してのこと、わわと慌てて口を塞いだウソップへ、
「うん、ウチのひいひい爺ちゃんはそういうがっつきから遺したんじゃないと思う。」
ウソップも違うって言いたかったんだろと、先回りしてのそんな言いようをしたルフィであり、
「たださ、ウチの墓にわざわざ隠したってことは、ただ横取りされたくなかったってだけじゃなく、俺らのことを信頼してて、あてにしててのことじゃないのかなとも思うんだ。」
「あて?」
何だそりゃと、訊き返してきたウソップへ、言ったルフィも“ううう〜〜っ”とうなる。上手い言葉が見つからないらしくって。
「何てのか、誰にも触らせないぞって守るって方向だけじゃなくて、大切にするってのか、どう良いものなのかも理解できるってのか。」
「…お前のひいひい爺ちゃんて、何かのマニアだったのか?」
ノーランドの冒険話にもそんなことは書いてなかったがと、微妙なお顔になった乳兄弟さんへ、なんだとこらと今度はさすがに怒った間合い、
「…と。」
Trrrrrrr…という いたってシンプルなパターンの電話の呼び出し音が間近で聞こえた。どこだどこだとウソップが見回す内にも、ピッという軽やかな操作音がし、
「もしもし…あ、ロビンか?」
いとも気軽にルフィが出た辺り、登録済みの周波数を使ったお身内からの電話だったようで、
「うん、うん…、そっか。ありがとな。」
会話自体も随分と短いそれで。あっと言う間に切ってしまった彼だったので、
「ロビン様って、久し振りじゃあないのか?」
「ん? そんなことないぞ? 今度の古文書の解読も随分と手伝ってもらったし。」
「あ…。」
そっかぁ〜、確かにお前が図書館で調べてる筈はねェよなとは思ったが、あのお人に訊いてたかと。こちらも今頃になって辻褄が合った事実があった模様だが、それはさておき。
「で? 何を教えてくれた電話だったんだ?」
ぱらぱらぱらっと王子が広げたのが、今回の地図解読に使っていたノートだったので、それへの付け足しがあったらしいなと見越して訊けば、おうと嬉しそうな応じの声が返って来、
「問題の隠し場所にあった印がサ、何の意味かが判んねかったじゃんか。」
「ああ、あれな。」
宝箱でも王冠でも、はたまた髑髏でもなきゃバッテンでもない、強いて言や人の手の形に似た奇妙なしるし。
「アレが何なのかが判ったんだって、ロビン凄げぇ。」
挟んであったペンで、コピーした地図の張ってあるページに何か書き足そうとするルフィであり。ところでこの坊ちゃんの字は、金髪の隋臣長以外にはとんでもない暗号みたいなものなので、お仲間な筈のウソップにも何が何やらさっぱり判らず、
「で? どういう意味の印なんだって?」
「それがな、これって“ともだち”って意味なんだって。」
「え?」
………いや、ここで例のギターの重低音とかがBGMにと響いてきたりはしませんが。
(またそんな風化しそうなネタを振る。20世紀少年…)
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*ああもう8月も終わるというのにねぇ。
夏の初めに書き始めたのがまだ終わりません。
つか、本題になかなか近づいてゆきません。
大層なお話にするつもりはないんですがね。
書くのが遅れると、
お待たせした分、勿体振ったみたいで、
あっさり済ませるのが悪いような気がして来る悪循環…。

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